20010911
8時48分に始まった悲劇。
一週間だけニューヨークに帰ってきていて、東京へ戻る予定だった朝。
荷物をパックして、空港へ行く前に軽く朝御飯を食べようと、ちょうど、紅茶を入れている頃でした。
何だかピーポーピーポー、そういえば救急車がいつもよりうるさいなぁ、くらいにしか気に留めず朝御飯を食べ終わり、最後の荷物の点検に自分の部屋へ帰ると、窓の外で「ウワーー!」と叫び声が聞こえた。後で解ったのは、それが2番目の飛行機がつっこんだ瞬間でした(9時3分)。チラッと外を見ると男の人がたくさん群がっているので、最初はストライキか何かが始まるのかと思った。みんなが一方を向いて騒いでいる。窓を開け、皆が見上げている方を見ると、くっきりと見えるワールドトレードセンターの4分の3くらいの高さの所からもくもくと黒い煙が上がって、真っ赤な火が燃え上がっている。「火事だよ!!!ワールドトレードセンターが火事!!」とお母さんに叫ぶと、「え!?え!?」とリビングへ走ってテレビをつけに行こうとするので、「いいからとりあえず見て!!!」と、窓から身を乗り出して見せる。「うそでしょ?!」と半信半疑でニューヨーク市のローカルチャンネルをつけると、ワールドトレードセンターが両方燃え上がっている生中継。飛行機がビルにクラッシュしたとのこと。当然、事故だと思った。「どうしようどうしよう・・・」と呟きながらも、とりあえずスーツケースを持って母親と外に出ると、大勢の人が茫然と見上げている。それが9時15分頃。その群集の中を通って、車の駐車場まで2ブロックほど歩いてゆく。あまりのことに気が動転していて、目の前の理解不能の光景に一瞬、ハハ、と笑ってしまう。引きつって。その瞬間、すれ違った女性に「what are youlaughing at?」と、軽蔑の表情をぶつけられ、かえって侮辱されたようで一瞬カッとなるが無視。自分の感情もよくわからない。
駐車場は、人で溢れ返っている。オフィスに働きに来ている人が家に帰るために一旦入れた車をまた出そうとして、ごった返している。10分ほど待って、車が出てくると、一応行ける所まで行ってみようか、と母親がハンドルをにぎる。即ラジオをつけると、信じられない事を言っている。「今、何人もがビルから飛び下りています。」イーストサイドに向かう途中、10分ほど走ったところで、ラジオから「すべてのトンネル、橋、高速道路、空港が封鎖されました。」と流れる。この時点で、日本へ帰ることも、帰った次の日に予定されていたレコーディングも、もうどうにもならないと諦めて、引き返す。そこが、よく行く仲良しの日本人オーナーのカフェのすぐ近くだったので、なんだか知ってる人の顔がとても見たくなって、寄っていくことにする。母親と二人でカフェに入っていくと、オーナーのおじさんが小さい息子さんと一緒に階段の所に座っていて、弱々しく微笑む。「とんでもないことになりましたね。」と、まだどれだけの危機感を持ったらいいのか解らないテンションでお互いポツリポツリと話し始める。おじさんは、息子さんを学校(幼稚園?)に送り届けて帰る途中で2機目の爆発を見てしまったらしく、話していても放心状態から抜け切れてない。私達は暖かいラテとパンを買って、何と言ったらいいのかよくわからない的外れな挨拶をしながら別れて、車に乗り込み再度ラジオをつけた時、興奮した声が「タワーが崩れる!崩れる!!」と叫んでいた。聞き間違いかと思いながら走り、家の付近に着くと、道路に人で溢れて通れないくらいになっている。とりあえず家の目の前に車を止める。ふとタワーのほうを見て、「え?ない?」と思ったが、ものすごい量の煙に包まれてタワーの有無さえ確認できないので、まだ崩れたことを信じずに、とりあえず家に入ってテレビをつけた。頭が混乱して、鼓動が早い。数分後、テレビの中で二つ目のビルから恐ろしい煙が噴き出して、崩れ始めた、と同時に、よく覚えていないけれど、「崩れる!!!ねえ崩れるよ!!!」と母に叫びながら猛烈な勢いで自分の部屋までダッシュして窓から勢い良く身を乗り出すと、最後のアンテナがストーンと綺麗に垂直に下がりながら灰色の煙に包まれる瞬間だった。ほんの10秒も経たないうちに、110階建てのビルが完全に視界から消えてしまった。「もうやだー・・」と泣けてきて、吐き気に襲われる。「どうしよう、うそでしょ・・・」と呟きながらそのまま母と下に降りて、マンションの外で抱き合って泣いたり、情報を交換したりしている住人達と合流する。パニックする人、泣叫ぶ人、呆然と立ち尽くす人、ラジオを片手に落ち着いて次何をすべきか意見を交わす人、苛立つ人、無表情に見つめあう人。うちの下に住んでいるおばさんは、すぐ献血しに行くつもりだ、と言う。ふと気付けば、スリッパのまま道路に立ち尽くしていました。あとはもう、ニュースの通り。ペンタゴンが襲撃され、もう一機が墜落し、貿易センターの他のビルも崩壊した。
この世の終わりかと思うくらいの煙、破片、灰。うちは、ワールドトレードセンターからは歩いて20分ほどの距離。風向きが南で、うちとは反対方向だったので、煙は全部ブルックリン方面に流れて、灰が降り注いでいるそう。うちの辺りは大丈夫。とにかく知り合いが皆無事かどうか、一日中連絡を取り合う。電話が通じにくいのでメールで無事を報告する。昼過ぎ、全交通機関封鎖で家に帰れなくなった友達3人がうちに避難しに来る。
想像したこともない出来事。映画の中だけで起こって、ばからしい、そんなことあるわけない、と思っていた出来事。それが目の前で起こった。